プロポーズ

ヒュウガを抱くことはある。けれどそれは裏切らせない、離れさせないための誓約のようなものだ。

俺たちは恋人同士ではない。そこに恋はない。

だから、あの日。

「貴方にプロポーズしようと思って」

夕陽を背に負ったヒュウガの言葉を。

いつもの思い付き、戯れだろうと流した。

――その結果。

「妻子がいるなんて聞いてないぞ」
「相手が相手なのでさすがに言えませんよ。ソラリスで知っていたのは天帝陛下だけです」

旧友でありながら知らぬ間に既婚者になっていたヒュウガの奥方は、ソラリスの敵国であったシェバト人らしい。守護天使として当時第3次シェバト侵攻作戦の指揮官まで務めておきながら、立場そのままに奥方を娶ったというのだからとんでもないやつだ。

「……俺にプロポーズしたくせに」

ヒュウガに抱く恋はなくとも情は――愛は。おそらくあの頃から既にあったのだ。

惜しいことをした、と思う。我ながら狡いことを考えるようになったものだ。

「いつの話をしてるんです?そもそも受け取らなかったのはカールの方ですよ」
「あのときはミァンがいた」
「私もユイとは出会っていません」
「……それもそうか」

こんな甘えなど気が付いているのだろう。声音は穏やかだが、とりつく島など与えないとばかりにぴしゃりと言い放たれる。そうして真摯であってくれるからこそ出来る甘えではあるのだが、情けない姿で応えられるものではない。

「……本気でしたけどね」

慣れない冗談も程々にと切り上げようとして、ともすれば風の囁きにさえ消えそうな声が聞こえた。顔を上げれば少し困ったように笑うヒュウガと目が合う。

「でも、戯れだった。子どものような願いだった」

監獄のような天上の国、ソラリス。

その下層で生きたヒュウガにとって、己をすくい上げた“カーラン・ラムサス”は寄る辺だった。それが情や愛のすべてでなくとも、孤独を厭い、誓約を言葉に求めるほどに。

互いに幼く不器用だった。

そんなものはなくとも並び立つことが出来る現在ならば、笑ってしまいたくなるような話だ。

「――今は幸せか、ヒュウガ?」
「ええ、おかげさまで」

ヒュウガの頬に刻まれた笑みの跡が深くなる。

その微笑みがどうしようもなく愛おしいことは、あの夕暮れより昔から確かに知っていた。


 

Twitterにてふせったーを使って呟いてたネタを広げてみたんですが、尻切れトンボみたいになってしまったので小話扱い。

ラムヒは恋より愛って感じがします。

それはそれとして、ユーゲント時代はヒュウガは他に居場所がないし、カールは言わずもがななのでお互いの愛に気付けなくて(あるいは気付いていても言えなくて)繋ぎ止めるのに必死になってそうなのがいい。

各々がユイさんとかミァンちゃんに向けてるのとはまた別の愛。情と呼ぶには優しいし、厳しい。